海のものとも、山のものとも。

2016年 10月03日・成毛眞 投資コラム 第1回

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  • もしも会社をやめたいのなら
    会社が成長するまで待つ

    20世紀最後の年である2000年に、私はマイクロソフト日本法人の社長の職を辞しました。同時に、1981年から務めていたマイクロソフトを退社してもいます。2000年と言えば、NTTドコモがiモードのサービスを、NTTがISDN回線を使った定額通信サービスを開始した翌年のこと。パソコンやインターネットがそこから普及し、市場が広がることは明らかな時期で、マイクロソフトも成長することが確実であったにもかかわらず、いや、あったからこそ、私はITから離れることにしたのです。

  • “逆張り”が長期投資に向く

  • 逆張りという言葉があります。いまではすっかりあまのじゃくと同じ意味で使われていますが、元々は株式用語で、価格が下落傾向にあるときに売り、上昇傾向にあるときに買う順張りの逆で、下落傾向にあるときに買い、上昇傾向にあるときに売ることを指します。順張りは、デイトレーディングのような短期投資に、逆張りは長期投資に向いています。

    2000年の私は、人生という、長期で勝負する場で逆張りを選択しました。私の目には、2000年のIT業界はピークを迎えようとしているように見えました。現在のグーグルやアマゾンなどのネット業界は、この頃のIT業界が創りだした技術基盤の上で繁栄している新産業です。

    マイクロソフトに入社したときもそうです。私が同社に入ったのは1981年。大学を卒業して入った会社は、故郷の北海道にある自動車部品の製造メーカーでした。しかし、大阪に転勤になり水があわず、思い切って出版社に転職したところ、そこでの出向先が後にマイクロソフトという名前になる会社でした。これからITが伸びそうだから、マイクロソフトに入ったわけではありません。たまたま、あるいはうっかりと、ITが海のものとも山のものとも付かぬ時期にそこに放り込まれ、社員番号3を与えられただけです。

  • アマゾンを品切れにする書評サイトを設立

  • さて、マイクロソフトを辞めた後、私は投資コンサルティング会社インスパイアを設立し、ITに限らず様々なベンチャーに投資し始めるようになりました。その一方で、かねてからの趣味であった読書を活かして書評を書くようになり、さらに、ノンフィクション専門の書評サイト『HONZ』を設立してもいます。

    活字離れ、出版不況が叫ばれるなか、いい本をキュレーションするというのも今となって振り返ればまさに逆張りであったなと思うのですが、結果として、HONZに掲載された書評は、東洋経済オンラインや現代ビジネスなど、多くのビジネスパーソンが読むオンラインメディアに転載され、広く読まれるようになりました。出版業界では「HONZで紹介されるとアマゾンの在庫が切れる」と評判になり、それが縁で岩波新書から『面白い本』『もっと面白い本』を上梓、週刊新潮でその名も『逆張りの思考』という連載を持つようになりました。

    ただ、私は何でもかんでも逆張りをしているわけではありません。「これは自分にとって長期投資になるのでは」と思えるものだけを、肩肘張ることなく、試してきただけなのです。

成毛 眞
(なるけ まこと)

HONZ代表。元マイクロソフト社長。インスパイア取締役ファウンダー。スルガ銀行社外取締役。早稲田大学ビジネススクール客員教授。週刊新潮、週刊東洋経済、月刊クーリエ・ジャポン日経BPネットにエッセイ連載中。産経新聞、週刊朝日などに書評定期寄稿中。代表的著書に『面白い本』(岩波新書)『大人げない大人になれ』(新潮文庫)など多数。