海のものとも、山のものとも。

2016年 12月15日・成毛眞 投資コラム 第4回

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  • 東京で一番カッコいい
    オヤジが集まるバー

    東京で一番カッコいいオヤジが集まっている場所をご存じでしょうか。いつ行っても適度にリラックスでき、帰るときには来たときよりも必ず豊かな気持ちになれる場所。そこは、あるバーです。

    バーは東京のあらゆる街にあります。新宿にも渋谷にも、銀座にも六本木にも、中目黒にも吉祥寺にもあります。しかし、私のいうあるバーは、そういった街の中に看板を出しているわけではありません。

    それは、日比谷公園の向かいに佇む老舗ホテル・帝国ホテルの中にあります。正面玄関を入ったら、ロビーにある階段で中二階に上がります。そして日比谷公園を背に左方向へ。フレンチレストランの角をひとつ、ふたつ曲がると、オールドインペリアルバーがそこにあります。こここそが、東京で一番カッコいいオヤジが集うバーです。

  • 常連風を吹かせる客を寄せ付けない

  • このバーがカッコいいオヤジを集めるのにはいくつか理由があります。

    まず、サービスが素晴らしい、つかず離れず、過不足ないサービスは、巷のバーとの格の違いを感じさせます。

    それから、客が素晴らしい。老舗の店には常連風を吹かせて、周りの客を不快にさせる輩が何人かいるものですが、このバーにはそんな客はいません。目配りの効いたサービスをする側が、心地よい空気を乱す客を寄せ付けないのだと思います。

    また、店内のしつらえが、そこで時間を過ごす者の気持ちを和らげます。帝国ホテル旧館がフランク・ロイド・ライトの設計によるものであることは有名ですが、このバーには建築当時のままの大理石やテラコッタが、特別に主張することなく残されています。これが老舗のバーらしい暖かみのある居心地の良さを醸し出します。

    このバーに欠点があるとするならば、予算を少し多めに用意しなくてはならないことです。ビール一杯だけ飲むにも、3000円は準備した方がいいでしょう。しかし、この価格の高さはハードルの高さとなり、この店の空気を乱す客を遠ざけます。これも、カッコいいオヤジだけを集める理由の一つなのです。

  • ビジネス書を読むよりもカウンターで、一杯

  • 毎日、このバーに通うのは時間的にも予算的にも難しいでしょう。しかし、月に一度ならどうでしょうか。通えないことはないのではないかと思います。そして、帝国ホテルのオールドインペリアルバーに、月に一度、通い続けることは、かけがえのない財産を産む投資になります。

    そこへ行けば、カッコいいオヤジとはどんな風にバーで振る舞うのか、目の当たりすることができます。どんな本を読んでもネットで検索しても分からない、粋な姿にリアルに触れることができます。それに、面白い話をたくさん知っている、いい人に出会えます。お高くとまっているわけでも、スノッブでもない、カッコいいオヤジと知り合えます。

    もしもあなたがまだ若いなら、このバーに通うことを強くおすすめします。そこで学べることは、何冊もビジネス書を読んで得られる知識よりずっと価値があるものです。

    最初は緊張するでしょう。ただ、勇気が必要なのは最初だけです。あとは、プロフェッショナルのサービスを楽しみにきたという気持ちを隠さずに、リラックスして飲んでください。飲みながら今後の人生に投資できるのですから、こんなにいい話もないのではないでしょうか。もしかするとカウンターの隣には、カッコいいオヤジに憧れている私が座っているかもしれません。

成毛 眞
(なるけ まこと)

HONZ代表。元マイクロソフト社長。インスパイア取締役ファウンダー。スルガ銀行社外取締役。早稲田大学ビジネススクール客員教授。週刊新潮、週刊東洋経済、月刊クーリエ・ジャポン日経BPネットにエッセイ連載中。産経新聞、週刊朝日などに書評定期寄稿中。代表的著書に『面白い本』(岩波新書)『大人げない大人になれ』(新潮文庫)など多数。