海のものとも、山のものとも。

2016年 12月26日・成毛眞 投資コラム 第5回

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  • 生命保険では得られない
    グッドニュース

    よく、日本人は生命保険が大好きだと言われます。世帯加入率は9割を超えると言いますから、入っていない人を探すのは大変です。そして私は、生まれてから一度も生命保険に加入していません。「なぜ入っていないのか」と聞かれることがありますが、私としてはある程度の年齢を重ねた人が「なぜ入っているのか」が疑問です。

    念のため言い添えると、子どもを持つ働き盛りの大黒柱は生命保険に加入しておいたほうがいいとは思います。子どもが成人するまで十分な教育を受けられるだけの費用は、確保すべきだと思うからです。しかし、子育てが終わったら、不要です。

  • 私が平均寿命より長く生きる理由

  • 私がそう考えて生命保険に入っていない理由は、もう子どもが社会人になっていることに加え、もうひとつあります。私は、私はそう簡単に自分は死なないと思っているのです。これは、よくある「自分だけは大丈夫」という思い込みとは違います。

    日本人男性の平均寿命は80歳を超えていて、私は60歳を超えています。するとこの二つの数字から「あと20年、生きることになる」と考える人もいるのですが、私はもっと長く見積もっています。平均寿命というのは0歳のときの平均余命なので、60歳の平均余命とは違います。少し古いデータになりますが、2012年の男性の平均寿命つまり0歳の平均余命は79.94年ですが、60歳の平均余命は22.93年。60歳まで生きた人は、平均でざっと3年、平均寿命と呼ばれるものよりも長く生きることになります。ちなみに、70歳での平均余命は15.11年、80歳でのそれは8.48歳。80歳まで生きた人は、平均で88歳まで生きる計算になります。平均寿命より10年ほど長く生きるということです。

    それでなくても、医療技術の進化は日進月歩です。私が70歳になったとき、80歳になったときには、余命はもっと伸びているでしょう。

  • 人間ドックは無事を知るための投資

  • そうなると、死亡時にいくらもらえるかより、どれだけ長く健康でいられるかに大きな関心を抱くのではないでしょうか。

    そこで私は40歳を過ぎた頃から、生命保険料を支払ったつもりで、人間ドックを受けてきました。一般的な人間ドックは3年に一度、ほかにも、脳ドックなどを受けています。早期にトラブルを発見できれば、施せる手は多いので大事に至らずに済みます。

    では、そこでどんなトラブルを発見できたかというと、ゼロです。今のところ、健康体です。しかし、人間ドックなどに使ってきたお金を、無駄だと感じたことはありません。「今のところ大丈夫」という安心感は、何にも代えがたいもの。不安の除去というのはかなり大きな投資です。

    大きな災害が起きると、家族の安否を一刻も早く知りたいという人たちによって通信が混み合います。時間が経ってから確認しても何が起きているかその事実は同じであるにも関わらず、なぜ、先を争うのか。それは、自分にとって、安心するということが、どれだけ価値と意味を持つかを知っているからでしょう。自分の体についても同じことです。無事を知るということは、ほかのどんなニュースを知ることよりも、大事なことです。

    毎月引き落とされる生命保険料は、そういった素晴らしいニュースを知らせてはくれません。かえって「また引き落とされた」とくよくよしてしまうかもしれません。これでは、体に悪いのではないでしょうか。

成毛 眞
(なるけ まこと)

HONZ代表。元マイクロソフト社長。インスパイア取締役ファウンダー。スルガ銀行社外取締役。早稲田大学ビジネススクール客員教授。週刊新潮、週刊東洋経済、月刊クーリエ・ジャポン日経BPネットにエッセイ連載中。産経新聞、週刊朝日などに書評定期寄稿中。代表的著書に『面白い本』(岩波新書)『大人げない大人になれ』(新潮文庫)など多数。