海のものとも、山のものとも。

2016年 12月26日・成毛眞 投資コラム 第6回

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  • キューバで買った葉巻を
    密閉容器に入れた理由

    長く緊張が続いていたアメリカとキューバの間に、雪解けのムードが漂い始めました。それを受け、キューバにもようやくアメリカ人観光客の姿が見られるようになりました。2016年5月、およそ40年ぶりに、アメリカ人観光客を乗せたクルーズ船がキューバの首都・ハバナにある港についたとき、キューバ側は歓待ムードで出迎えたといいます。

    そのキューバを、私は2015年11月に訪れました。いつの日かキューバとアメリカの間の国交が回復したら、ハバナの街並みは短期間のうちにがらりと変わることは間違いがありません。なので、変わる前のキューバを見ておきたかったのです。変化の前を見ておくこと、これは私にとって楽しみでもあり、変化の後をより興味深く見るための投資でもあります。滞在中は、ラム、クラシックカー、チェ・ゲバラ(のイラストが入ったお土産の数々)をたくさん目にし、ひととき、キューバを舞台にした小説『老人と海』を記した文豪アーネスト・ヘミングウェイの気分も味わえました。

    キューバと言えば、葉巻も有名です。私は今回の旅で、葉巻を何本か買ってきました。

  • 葉巻はカッコいい大人に近づくためのツール

  • 私は煙草を吸いません。若い頃は吸っていましたが、今はすっぱりやめました。その代わりというわけでもないのですが、時々、葉巻を吸っています。今、気に入っているのはパルタガスという1845年に生まれたブランドのものです。1845年と言えば江戸末期ですから、立ち上る煙を見ていると、十五代将軍徳川家慶に思いをはせることもあります。

    とはいえ、正直なことを言うと、葉巻の味の善し悪しはよくわかりません。好きかどうかも、自信がありません。しかし、葉巻を吸っている大人の男はカッコいいなと思うので、それに少しでも近づきたいという思いで、吸うようになりました。私にとって葉巻は、ちょっとした背伸びであり、将来ダンディになれるかもしれない自分への投資です。

    こういった小さな所での背伸びは、案外と広く、波及効果をもたらします。私は吉祥寺のハモニカ横丁に並んでいるようなカジュアルな居酒屋も大好きですが、そういった店と葉巻はあまり似合わないような気がします。葉巻が似合う場となると、やはりオーセンティックなバーでしょう。では、そういったバーにTシャツに短パンで出かけられるかというと、ちょっと気が引けます。やはりジャケットくらいはひっかけていくかという気持ちになります。葉巻を、葉巻にふさわしい環境で吸おうとすると、これだけの変化が訪れます。

  • ちょっとした背伸びで得た投資のアイデア

  • 葉巻を吸うようになれば、当然のことながら銘柄にも興味が湧きますし、葉巻に詳しい友人もできます。そこで、こんな耳寄りの情報を得ました。

    葉巻も、ワインやウイスキーと同じように、熟成させると味が良くなるのだそうです。熟成と言っても難しいことはなく、密閉容器に入れて冷暗所で保管するだけ。10年もすると、買ったときにはいまひとつだった葉巻もぐんと味が良くなるのです。好事家の間ではかなりの価格がつくのだとか。

    私は葉巻の味がそれほどわかるわけではありませんし、また、あくまで自分の背伸びのためのツールだと思っているので、葉巻でお金を儲けようとは思いませんが、結果として、ちょっと背伸びをしたことで、思いも寄らない投資のやり方を一つ、知ることができました。とりあえずこっそりと、キューバで買ってきた葉巻を熟成させています。

成毛 眞
(なるけ まこと)

HONZ代表。元マイクロソフト社長。インスパイア取締役ファウンダー。スルガ銀行社外取締役。早稲田大学ビジネススクール客員教授。週刊新潮、週刊東洋経済、月刊クーリエ・ジャポン日経BPネットにエッセイ連載中。産経新聞、週刊朝日などに書評定期寄稿中。代表的著書に『面白い本』(岩波新書)『大人げない大人になれ』(新潮文庫)など多数。