海のものとも、山のものとも。

2017年 01月10日・成毛眞 投資コラム 第8回

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  • 子どもには学校の外で
    自信をつけさせる

    都内に暮らしていると、日能研独特のNの字が入った通称Nバッグを背負った子どもの姿を見ることも、SAPIXをサピと発音する人たちと会話をすることも珍しくありません。東京都教育委員会によると、2014年度に都内の公立小学校を卒業した生徒のうち、16.4%が都内の私立中学校へ進学しています。特に千代田区・中央区・港区では半数近くが私立へ進んでいます。都心にはそれだけ我が子の教育に熱心な親が多いということでしょう。

    親が子どもの教育に熱心になるのは、それが子どものためになる、子どもの将来への投資になると信じているからだと思いますが、しかし履歴書を飾る学歴を与えるだけでは、投資は不十分ではないでしょうか。子どもは成長するにつれ、勉強ができるだけの人は世の中に案外とたくさんいることを知り、それだけでは人材市場で高く評価されないことも学んでいきます。そういうときに、子どもに必要なものは何かと言えば、自分ならなんとかなるという自信です。なんとかなったという過去の経験です。

  • 陸海空の史上最年少ライセンス

  • 自信というものは、形あるもののようにどうぞと手渡すことはできません。放っておいて自然に身につくものかというと、なかなかそうもいきません。ですから親は、子どもに対し、自信をつけられそうな体験を用意するべきでしょう。もしかするとかつての中学受験などにもそういった意味合いがあったのかもしれませんが、しかしクラスメートの半分が私立へ進むような環境では、受験を突破したからと言って大きな自信は芽生えないはずです。

    自信を育むには、周りの同級生がしていないことを体験させるのが一番です。

    たとえば、乗馬やスキューバダイビング、スカイダイビングなど、大人の遊びと思われているものを、年齢制限が解けたとたんに体験させるのです。すると、同級生で一番乗りができます。厳密には違っても、史上最年少になれます。些細なことですが、子どもにとってはこれが大きな自信になります。ジュニア用のライセンスが得られるものなどは最高です。なお、乗馬とスキューバダイビング、スカイダイビングを例に挙げたのはそれで陸海空を押さえられたと子どもに実感させられるからです。陸海空でなくても、ある程度テーマがあったほうがいいでしょう。

  • 子どもの社会を広げる投資を

  • 自分自身が子どもの頃を振り返っても、クラスで一番早くバイクやクルマの運転免許を取得した同級生のことは、なんだか大人に見えたものです。私は9月生まれなので春生まれの同級生には数か月遅れざるを得ず、忸怩たる思いをしていました。逆に、4月生まれの同級生は意気揚々としていました。

    運転免許に限らず、許可制のスポーツなどのライセンスを得るにはある程度の金額が必要ですが、それと引き替えに手に入る自信と比べれば、また、受験のために通う塾の費用と比べれば安いものです。

    それに、学校の外でクラスメートがしていない体験をすることは、学校以外にも社会があると体感することでもあります。小中学生くらいの子どもにとっては、学校と家庭だけが社会のすべてのように感じられるので、それによって窮屈な思いをすることもあるでしょう。しかし、それ以外にも広い社会があることを知れば、それだけで気が楽になりますし、生き方の選択肢も増えます。これこそが、子どもにできる最大の投資です。こうやって自信さえつけさせれば、受験勉強や就職試験などは自力で乗り越えられるようになるのではないでしょうか。

成毛 眞
(なるけ まこと)

HONZ代表。元マイクロソフト社長。インスパイア取締役ファウンダー。スルガ銀行社外取締役。早稲田大学ビジネススクール客員教授。週刊新潮、週刊東洋経済、月刊クーリエ・ジャポン日経BPネットにエッセイ連載中。産経新聞、週刊朝日などに書評定期寄稿中。代表的著書に『面白い本』(岩波新書)『大人げない大人になれ』(新潮文庫)など多数。