海のものとも、山のものとも。

2017年 03月15日・成毛眞 投資コラム 第11回

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  • 歌舞伎は
    ローリスク・ハイリターン

    歌舞伎。この言葉から、どんなキーワードをイメージするでしょうか。日本史で習った出雲阿国や鶴屋南北、あるいは東銀座にある歌舞伎座。中村吉右衛門や市川海老蔵のような人気役者、美しい梨園の妻たちに思いいたる人もいるでしょう。もしかすると、難解とか、退屈とか、お高くとまっている、などと思う人もいるかもしれません。

    しかし歌舞伎は実際のところ、シンプルに楽しめるものですし、投資という観点で見ると、じつにローリスク・ハイリターンな趣味です。

    まず、歌舞伎は消えてなくなることはありません。歌舞伎が江戸の時代から庶民に愛されてきた娯楽であることはよく知られています。ということは、もう、400年以上続いていることになります。それぞれの時代の人たちに愛されてきた歌舞伎が、少なくとも私が生きている間に、グループサウンズのように消滅することはないでしょう。つまり、私は死ぬまで歌舞伎を楽しむことができるのです。

    江戸時代から代々続いている老舗の蕎麦屋が、少なくとも、私の存命中は店を開いているであろうこと同じです。一方、新興のラーメン店などは下手をすると半年後には閉店していることがあるので、せっかく常連になっても肩すかしを食らう恐れがあります。それに、歌舞伎にはたくさんの常連、ご贔屓筋がいますから、なにかの危機が訪れても、彼らがなんとかしてでも支えるに違いありません。ですから、歌舞伎に入れあげたころになくなってしまうということがない。実にローリスクな時間の投資といえるのです。

  • 50代だって歌舞伎見物では“若手”

  • 歌舞伎見物は何才から見はじめても、遅すぎるということはありません。

    歌舞伎座に通っている方はよくご存じだと思いますが、歌舞伎見物客の平均年齢は、すこぶる高い。私のような60代でも、その場の平均年齢を下げているのではないかと思います。50代なら、若手。40代なら、ひよっこ。30代以下は「どうして歌舞伎に興味を持ったの?」と奇異の目で見られるかもしれません。これはつまり、50代から見始めても、遅すぎないということです。

    裏を返せば「どうして歌舞伎に興味を持ったの?」という視線を浴びそうな年齢から始めると、その蓄積は果てしないものになり、同世代が「そろそろ歌舞伎でも」と興味を持ち始めた頃には、すっかり本物の歌舞伎通になっています。なかなか愉快ではありませんか。

  • 歌舞伎好きには粋な人が多い

  • リターンの話もしましょう。ハイリターンである理由のひとつは、ほかのエンタテインメントへの理解が深まることにあります。歌舞伎を知っていると、たとえば、落語や最近のヒットドラマを見ると「あ、これは歌舞伎だな」と気づきます。歌舞伎の人気演目「仮名手本忠臣蔵」を下敷きにした落語の「四段目」や「中村仲蔵」など、高座を聞いていると二つの芸能が絡み合っていることに気づき、心から楽しめると思います。歌舞伎を知っている人と知らない人とでは、楽しみ方がまったく異なるでしょう。

    ハイリターンであることのもうひとつの理由。それは、いい友人ができることです。歌舞伎好きには、粋な人が多いし、歌舞伎以外にも興味深い趣味を持っている人が多い。カッコいい大人が多いのです。その一方で、パチンコやギャンブルなどを好きという人、お金に困っている人にはほとんどお目にかかれません。ですから、実に心地よい交友ができます。私は小泉純一郎元総理と歌舞伎仲間として知り合いました。ただし政治の話などはしたことはありません。なんともハイリターンではないでしょうか。

    歌舞伎座に毎月通う必要はありません。シーズンに一度、年に一度だって十分です。大事なのは頻度より長期的な継続。ですから、かかるコストもハイではなく、むしろローです。投資好きには願ってもない趣味です。これまで歌舞伎を敬遠していた方も、ぜひ一緒に歌舞伎を楽しみましょう。

成毛 眞
(なるけ まこと)

HONZ代表。元マイクロソフト社長。インスパイア取締役ファウンダー。スルガ銀行社外取締役。早稲田大学ビジネススクール客員教授。週刊新潮、週刊東洋経済、月刊クーリエ・ジャポン日経BPネットにエッセイ連載中。産経新聞、週刊朝日などに書評定期寄稿中。代表的著書に『面白い本』(岩波新書)『大人げない大人になれ』(新潮文庫)など多数。