海のものとも、山のものとも。

2017年 07月05日・成毛眞 投資コラム 第19回

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  • 京都・祇園の"一見さんお断り"には意味がある

    京都は外国人観光客にも、修学旅行生にも人気の観光都市です。清水寺、東寺、南禅寺、三十三間堂、伏見稲荷大社、桂離宮。京都国際マンガミュージアムに東映太秦映画村なんていうのもあります。ここに京都タワーを並べたら、京都の人は怒るでしょうか。建造当初は古都に似合わないと喧々諤々の議論があったそうですが、いまではリニューアルしてどこか京の街に馴染んでいるように思います。

    いにしえの暮らしを感じさせる街は京都に限りません。鎌倉や金沢にもどこか懐かしさがありますが、やはり京都は特別。そう思う人も多いでしょう。私もそのうちのひとりです。

    ですから、不意に新幹線に乗り、京都を目指すこともあります。乗車時刻はだいたい昼過ぎ。すると京都到着は夕方近くになり、拝観時間の終わる施設もちらほらと出てきますが、それで結構。私の目的地は祇園町だからです。

  • 御茶屋は空間だけを貸す

  • 祇園町と聞くと、どんな情景をイメージするでしょうか。おそらく真っ先に頭に浮かぶのは、髪をきれいに結い上げ、美しい着物を着て歩く舞妓さん、芸妓さんの姿ではないでしょうか。ちなみに舞妓さんとは、将来の芸妓さんのことで、彼女たちのほうが新米です。

    その舞妓さん、芸妓さんは京都では五花街と呼ばれる上七軒、先斗町、宮川町、祇園甲部、祇園東にある置屋に所属し、そこから御茶屋に派遣されます。御茶屋とはもてなしの空間のこと。提供するのは空間だけで、料理も仕出し屋から取り寄せます。御茶屋はよく知られているように“一見さんお断り”ですが、それは、よく知った常連客にあわせたオーダーメイドのもてなしを信条にしているからです。このあたりのことは、先日、京都を特集した『ブラタモリ』で知ったという方もいるかもしれません。なお、私の行きつけの御茶屋は、300年以上の歴史を持ち、大石内蔵助や近藤勇、西郷隆盛も通っていたと言われる御茶屋です。

    ここで一つ、御茶屋および舞妓さん、芸妓さんに関するありがちな誤解を解いておきたいと思います。彼女たちがお座敷で披露するのは、つとに舞であり、たとえお座敷遊びと呼ばれるちょっとしたゲームでも、お色気にようなものはありません。むしろ、知り合いの子女と一緒にお酒を飲むという感じなのです。

  • 少しずつ変わる様はビジネスの手本

  • こういった誤解が生じやすかったり、舞妓さんと芸妓さんの着物や髪の違いがあまり知られていなかったりするのは、花街に関する分かりやすいマニュアルやまとめサイトのようなものがほとんどないからでしょう。私は京都へ通うようになってもう何年かになりますが、ここに書いたようなことは、少しずつ、街から直接学んできました。今でも行けば、必ず新しい発見があります。古来の姿を頑なに守っているように見えて、常に新鮮さを提供する場所、それが花街なのです。

    定番のようでいて、人知れず変わっている。外から見ただけでは分からないルールがある。これはまさにプロの世界で、顧客を楽しませるためにはどんなことが必要か、ビジネスパーソンなら、御茶屋へ通うことで少しずつそれを学ぶことができます。経営者のなかに御茶屋通いを好む人が少なくない理由の一部には、これがあるのではないでしょうか。

    ただ、先ほども書きましたが、御茶屋は“一見さんお断り”。突破口を開くまでのハードルがあります。しかし、八方ふさがりというわけでもありません。まず、京都の老舗ホテルなら、御茶屋さんを紹介してくれるはずです。もちろん、行きつけにしている人を探して、その人に連れて行ってもらうというのもいいでしょう。ハードルは高いと思われていれば思われているほど、はなから諦める人が多いものです。だからこそ、ちょっと努力してそれを乗り越えると、結果が大きく異なります。“一見さんお断り”という制度は、チャンスをものにする意欲の有無を、計っているのかもしれません。

    お茶屋さんへ一回入ってみるということは、京都への投資の第一段階なのです。

成毛 眞
(なるけ まこと)

HONZ代表。元マイクロソフト社長。インスパイア取締役ファウンダー。スルガ銀行社外取締役。早稲田大学ビジネススクール客員教授。週刊新潮、週刊東洋経済、月刊クーリエ・ジャポン日経BPネットにエッセイ連載中。産経新聞、週刊朝日などに書評定期寄稿中。代表的著書に『面白い本』(岩波新書)『大人げない大人になれ』(新潮文庫)など多数。